ティーゼは、慌てて一人称を『僕』と言い換え、その場で『十四歳の少年ティーゼ』の設定を作り上げた。横顔に、続けてルチアーノの冷ややかな眼差しを感じたが、それに関しては無視した。

 マーガリー嬢は、後半の台詞を感慨深く思ったらしい。険しい目を穏やかに細めると、女性らしい静かな微笑を浮かべた。


「騎士は、昔から私の憧れだったわ。弱い者や大切な者、大事な場所を守るために戦う、優しい正義感に憧れたの。私は既に行き遅れた歳になってしまったけど、そうね、理想というのなら――」


 そこでマーガリー嬢は言葉を切り、思案するような間を置いた。

 幼い少年の質問に真面目に答よううとする彼女の姿勢を見て、ティーゼは「こんな姉が欲しい」という好感を覚えた。素手で害獣を倒すという情報には恐れ入るが、弟を大事にしている、優しい女性騎士なのだとも思えた。


「――強いだけじゃ駄目なのだと思うわ。優しいばかりで何も出来ないのは、愚かだという人もいるけれど。誰よりも優しい強者が、私の理想かしらね」