ティーゼとルチアーノが見守る中、門から勝手に入って来たルイに気付いたマーガリー嬢が、美しい顔に侮蔑の眼差しを浮かべた。

「あら、魔王様ではありませんか。こうして出回れるほど、お暇なんですの?」
「やぁ、マーガリー嬢、今日も美しいね。僕の事はルイと呼んでよ」

 マーガリー嬢が、汗ばんだ首周りについた髪を手で払いのけながら、ニコリともせずに言った。ルイは、美しい紅玉のような瞳を愛おしげに細めている。

 二人のやりとりが始まってすぐ、ティーゼは、一つの確信に唾を飲み込んだ。


 マーガリー嬢にとって、ルイは完全に恋愛からほど遠い位置付けだ。むしろ、完全にうざがられているような気がする。


 長身で妖艶な美女から険悪な空気を感じ取った周りの騎士達が、そろりと視線をそらして、逃げるように建物へと走り去った。ティーゼは堪らず、ルイ達の方を見つめたままルチアーノの袖を引っ張った。

「……どうしよう、ルチアーノさん。マーガリー嬢の機嫌が最高潮に悪くなっているように見えるんですけど。あの二人には、絶対的な温度差があると思うんですよ」