やはり、肩に手を置かれた時点で早々に逃げるべきだったのでは……そう逡巡していると、不意に大きな両手に右手が包まれて、ティーゼは思わず「ひぃッ?」と声を上げていた。

 種族の違いか、温度の低い魔王の手は、水のようにひんやりと冷たかった。しかし、彼女の口から反射的に色気のない悲鳴が上がったのは、美形な男の色香よりも、国際的な危機感を強く覚えたせいだ。

「そうだよね。やっぱり人間の女心は、人間の女の子の方がよく知っているよね」
「その、物の例えではそうと言いますか……一応、私も女ですし?」
「うん、やっぱり僕と友達になろうよ。友達だったら、恋愛相談とかもしていいんでしょう?」

 ティーゼは一瞬、言葉の意味を咀嚼出来で硬直した。僅かの間を置いて、「は?」と行き場のない言葉が口をついて出る。

 彼女が数秒ほど考えて思った事は、一つだった。

 この魔王様は、一体何を考えて生きているんだろう。

 思わず悟りを得そうなほどの呆け感に包まれ、ティーゼは、しばらく反応する事が出来なかった。