三曲目が終わると同時に、ゆっくりと足が止まり、ティーゼとクリストファーは向かい合った。

「僕は、いつでもその人のそばにいたいよ。誰よりも愛して、一人になんてしない。妻がいて、子供がいて、そんな家庭に僕は帰りたい」

 語る彼の穏やかな微笑みは、すっかり大人の男性のもので、不思議と父と重なるような深い愛情さえ感じた。想像を促されて、ティーゼは、毎日が幸福そうだった両親の姿を思い起こし、将来彼の隣に立てる女性を羨ましく思った。

 ああ、何だかいいなぁ、と夢想した。

 彼に愛される人は、きっと世界で一番幸せになれるに違いない。こんなに愛情深い人を、ティーゼは他に知らなかった。そういう人に愛されたら、どんなに素敵だろうかと、羨ましさと同時に一抹の寂しさを覚えた。


 こんなに素敵な彼が想う相手が――その眼差しを向ける相手が、もし、私であったのなら――……


 想いに耽るティーゼの深緑の瞳が、淡く揺らいだ。外から流れ込んで来た涼しげな風が、意思を持ったように会場に集まり始めて、そよぐ彼女のくすんだ栗色の髪の先が明るく染まり出すのを見て、クリストファーが、彼女に悟られないよう満足げにそっと目を細めた。