くるりと視界が回ってすぐ、鼻先が触れそうな距離から顔を覗きこまれて、ティーゼは硬直した。クリストファーの深い青の瞳に、吸い込まれて落ちて行きそうな錯覚に陥り、訳も分からず逃げ出したいような恥ずかしさを覚えて顔が熱くなった。

「ク、クリス、近い……ッ」
「そう?」

 それは気付かなかったな、とクリストファーが頭を起こしながら、のんびりと言った。流れている曲がまた変わり、ステップは、先程よりもゆったりとしたリズムになった。

「ねぇ、ティーゼ。僕には、ずっと欲しいものがあるんだ」
「欲しい物?」

 唐突に話を振られ、ティーゼは首を傾げた。記憶を辿ってみても、彼が何かを欲しいと口にするのは初めてのような気がする。クリストファーは常に両親から欲しい物を与えられていたし、ティーゼや仲間達が、誕生日プレゼントの要望を聞くたび、困ったように微笑んでもいた。

 今では自身で稼いでおり、少し高い買い物も容易に出来てしまう彼が、欲しいとする物については想像が付かなかった。ティーゼは、しばし考えたが何も浮かばず「なんだろう」と心底不思議でならないと表情に出した。