ティーゼは、彼がすっかり大人になったのだと実感が遅れて込み上げ、落ち着かなくなった。気付くと演奏曲は二曲目に入っていたが、こちらもゆったりとした曲だったので、ティーゼは、ステップだけに気を取られる心配はなかった。

 ずっと密着して踊っているせいで、こんなにも恥ずかしいのだろうか。

 そう思って視線を逃がしたティーゼは、ふと、ペアで踊る男女の中に、ルイとマーガリー嬢がいる事に気付いた。マーガリー嬢の雰囲気は険悪ではなく、可愛らしく頬を染め、どこか恥ずかしそうにルイを見つめている。

 ルイは、マーガリー嬢にプロポーズはしたのだろうか。プロポーズ後だとすると、二人は上手くいっているという事だろうか?

 初心なマーガリー嬢から察するのは難しくて、ティーゼは、近くに待機しているであろう意地悪な宰相を思い浮かべた。普段から無表情なルチアーノが、妙な表情をしていなければ、事が上手く運べたと受け取っていいのかもしれない。

 視線を巡らせようとしたティーゼは、次の瞬間、耳元で囁く声を聞いた。


「ティーゼ、僕だけを見て」


 握る手と腰を引き寄せながら、クリストファーがステップを踏んだ。