精霊族の血を引く人間は、心を落ち着かせてくれる不思議な空気をまとった者が多い。

 メイドは、この数時間ですっかりティーゼが好きになっていたし、彼女の同僚達も、ティーゼの素直で裏表のない様子も気に入っていた。クリストファーがわざわざ人払いをしてあるのだと教えて、怖がらせたくもないと思い、知らないままにさせておこうと考えていた。

 ロマンチックな『予言の精霊』の、その瞬間をお目にかかれるかもしれないと、先日に予告された多くの貴族達が、今や会場には詰め掛けて集まっているのだ。使用人達もその現場に立ち会いたいと殺到し、普段以上に仕事に精を出して、フロアをキビキビと動いている状況である。

 出来るだけ緊張させない事。そして、クリストファーの企みを知られない事が、メイド達の仕事だった。

 その思案を冷静な表情の下に隠して、メイドは思わず、可愛らしい精霊族の血を引いた少女を見つめた。自分は侯爵家のメイドであるので、ゆくゆくは彼女の世話も任せてもらえるのであれば、喜ばしいとは思う。