私よりも幼かったはずの彼の背丈が、女である私の身長を抜いてしまうのは、あっという間だった。彼は恵まれた忙しさにあったのに、それでも私の手をしっかりと握りしめたまま離れなかった。


 私は、当時から知っていたのだ。

 誰からも望まれる彼が、ちっぽけで美しくもなく、価値さえ見出せない私の手を、どうしても離せない理由を。


 多分、もっと早く、私が「もう、いいよ」「離して」「終わりにしよう」と口に出せていれば良かったのだと思う。幼かった私は、家族との死別という不運も重なって、今しばらくと彼の暖かい手に甘えてしまったところもある。

 さよならと告げなくとも、離れるきっかけを一つ置くだけで、住む世界の違う私達の関係は、きっと遠いどこかへと忘れ去られてしまうだろう。
 
 タイミングや、勇気がなくて口に出来なかった「さよなら」の言葉だったが、私達は一つの別れ道で、お互いの手が離せる時をようやく迎えた。