「ちょ、待って下さいよ。戦力というのなら、こっちには歴代最強の魔王と宰相もいるんですがッ。というか、あの二人は『翼』があるんだから、飛竜なんていらないでしょう!?」
『人界の騎乗用小型竜に乗ってみたいそうだ』
「なんだそのピクニック気分な理由は!?」

 魔界には、こちらでは考えられない大きさと、凶暴性を持った竜種が多く存在している。人界の魔力を持たない小型竜など珍しくもないだろうに、とクラバートは頭を抱えた。


 ティーゼ・エルマは、確かに精霊らしい美麗も滲む可愛らしい少女だ。幼い少年のような、好奇心溢れる深い緑の瞳もクラバートは嫌いではない。しかし、ヘタをすれば、クリストファーに切られる可能性が脳裏をよぎる。

 いや、本人が良いと許可しているから、その心配はないはずなのだが……


 身に沁みた恐怖感と危機感のせいだろう。これまで極力関わらないよう避け続けていただけあって、クラバートは苦悩の呻きを上げずにはいられなかった。クリストファーの騒動に巻き込まれないよう、わざわざ王宮から一番遠い場所に望んで身を置いたというのに、あんまりだと思った。

 ベルドレイクが『無事を祈る』と、縁起の悪い言葉で通信を切り上げた。

 国王の命令であるというのなら、臣下として従わない訳にはいかないだろう。クラバートは、今後の予定を素早く頭の中で組み立てながら、両手で顔を覆って深く項垂れた。