「すみませんでしたッ。私は用が済みましたので、これにて失礼します!」

 魔王は、滅多にお目に掛けない存在であると噂されている人物であり、面会を求める場合は、国を通して行われるぐらいの重要人物だと幼馴染から聞いた事がある。

 ここで国際問題に発展したらまずい。むしろ、冗談じゃない。

 ディーゼは、すぐさま『回れ右』をしたが、人懐こい魔王の、身分を超越するような優しさが仇となったのか、彼女は途端に肩を掴まれて硬直した。

「かしこまらなくてもいいよ。こう見えても、僕は二百歳の若輩者だし、発言権だってそんなにないから。むしろ、父上の影響力が強くて、僕はまだお飾りみたいな感じ?」
「そんな内部事情を一般庶民に話さないで下さいッ」

 魔王は、自嘲ともとれる発言を、のんびりとした顔で言ってのけた。恐らく、空気が読めない残念な人なのだろうと、ティーゼは戦慄と共に、自分の中の魔王像が音を立てて壊れていくのを感じた。

 いや、そんなことはどうだっていいのだ。


 彼女が今直面している問題は、どうやって、この肩に置かれた魔王の手をどかせばいいのか、である。