歴代でもっとも温厚派であると知られている今世代の若い魔王が、人の姿で自由に出歩けているのは、地上と人間が壊れないよう、魔力を最小限に抑え込んでいるからだ。

 魔力を解放すれば、とんでもない化け物であり、彼は魔力を解放する場を限定し、指一つ動かさずに破壊と殺しをやってのけてしまう恐ろしい君主でもある。この町が半魔族の被害を受けなかったのは、五年前からこの町に多く居座るようになったルイが、一瞥だけで敵を物理的に潰してしまえたせいだ。

 ルイは、歴代の魔王の中で最も強大な魔力を持っている。

 人間が好きで憧れている、と口にしながらも、分別をわきまえない同胞の部下を躊躇なく一瞬で殺してしまえる完璧な魔王でもあった。魔王という絶対君主を崇拝しない魔族が、一つも存在していない事は、今代のルイが初めてであるという話も軍部では有名だった。

 怖くないといえば嘘になるが、ルイは完璧な魔王であると同時に、欠点もほとんどない素晴らしい統治者でもある。彼の人となりに触れていれば、クリストファーという規格外の思考の持ち主よりも、尊厳と親しみさえ覚えるぐらいだ。