咄嗟に思い浮かんだのは、先程ここにクリストファーがやって来ていたという事実だった。彼は急ぎ戻ったらしいが、もしや――

「……もしかして、今さっき、王宮に英雄が戻られませんでしたか」
『ああ、戻って来た。完全に陛下達の企みに気付いたようだった』

 マジか。それ、完全にアウトじゃね?

 クラバートは、祝いの状態が続く王宮の惨状を想像して、血の気が引いた。

 英雄であろうと、なりふり構わず貴族達に脅威を見せつけるのはまずいだろう。クリストファーは侯爵家の跡継ぎだが、だからと言って、大勢の臣下に反感を持たれれば、さすがの陛下もかばいきれない事態に発展する可能性がある。

 クラバートの危惧を察したように、ベルドレイクが「それはないから安心するように」と青い顔のまま、弱々しく手を振った。

『被害は謁見の間で済んでいる。今王城を壊すのは都合が悪いからと、彼は、平和的に問題を解決しようじゃないかと、陛下と私達に穏便な交渉を持ちかけて来た』
「それを世間では脅迫というのではないですかね、ベルドレイク総隊長」