当時、王宮の近衛騎士だったクラバートもひどい目に遭った。

 事態を収拾するため走り回り、唐突に勃発する騒動に巻き込まれ、少なくとも三度は死の淵を彷徨った。吹き飛ばされた瓦礫の一部が腹に刺さった時は、もう駄目かもしれないと本気で諦めかけた。


 本物の第一王子、第二王子よりも、物語の王子風であるクリストファーだが、騎士達から言わせれば、歩く最終兵器、または災害の化身だった。一部の人間からは、人間界の魔王だと知らされているほどの脅威っぷりは、彼が神に選ばれた英雄である事の方が信じられないほどだ。


 そこまで考えたクラバートは、お気楽な陛下と、毎度クリストファーの逆鱗に触れているというのに、少しすると忘れたように過ちを繰り返す、その取り巻き一同の様子を思い返して「まさか」と勘付いた。

「陛下達は英雄との約束を、完全に反故する気なんですか?」
『…………そうするつもり、でいた』

 歯切れ悪い物言いに、クラバートは嫌な予感を覚えた。