英雄一向が帰還した際、姫と英雄が結ばれるらしい、というお伽噺レベルのロマンチックな噂が流れた。それはクラバートも耳にしたが、クリストファーを知っているからこそ、それが嘘情報であるとも気付いていた。

 ベルドレイクの顔色を見て、クラバートはそれを行ったのが彼らだと悟った。

「陛下には、ハッキリ断りを入れた方が良いですよ、ベルドレイク総隊長。約束を破られるとあったら、血の海をみますよ。昔、あったでしょう。先に幼馴染の少女が『運命』とやらを見付けてくれれば、あいつも諦めるだろうと考えた宰相側が勝手に動いて、有望な見習い騎士達が所属していた薔薇騎士団が、壊滅状態に陥ったじゃないですか」

 当時、クリストファーは十五歳にもなっていなかった。愛想の良い彼は激昂を表情に出さず、黒い満面の笑顔で薔薇騎士団の騎舎棟を襲撃し崩壊させた。それを止めに入った王宮騎士団の各師団も、大被害を被った。

 それからというもの、絶対に巻き込まれたくないという騎士達の中で、クリストファーの逆鱗である少女の絵姿が回された。彼女を見たら、距離を置いて必要上に近づかない事、話しかけない事が身を守るための必要条件、という注意文句まで出回った。