「僕はこれから、舞踏会の参加について連絡は取っておこうと思うけど――ティーゼ、本当にもう行っちゃうの?」
「はい。これから宿を探して、少し散策して、夜は居酒屋でたっぷり飲みます!」
「食べる事しか頭にないのですか。そもそも、あなたがお酒を飲めるとは意外です」

 すぐにルチアーノが嫌味を口にしたが、ティーゼは、ふっと余裕な吐息をこぼした。

「見た目で判断しないで頂きたいですね。私、こう見えても飲み比べでは近所のおじさんを上回るんですよ。時間と胃が許す限り、食べて飲みます!」

 しばし思案したルチアーノが、「少々お待ちいただけますか」と言い、ルイと共に屋敷に戻ってすぐ、一枚の紙切れを持って戻って来た。そこには町に唯一ある食堂と、宿泊施設、そして夜に一軒だけ開いている大衆向けの居酒屋の名と場所が書き記されてあった。

 なんだかんだで、面倒見が良いところもあるらしい。

 ティーゼは、少しばかりルチアーノを見直した。解放された喜びの方が勝ってもいた事もあり、素直に礼を告げて、軽い足取りでようやく魔王の別荘を後にしたのだった。