恐らくクラバートは、王宮務めだった頃があるのかもしれない。クリストファーと同じ勤め先だという騎士を、ティーゼは、店先やギルドでかなり見掛けていたから、そう推測する事が出来た。

 とはいえ、ティーゼとしては、クラバートの低姿勢な言葉遣いには違和感を覚えていた。

「あの、団長さん? 私はただの平民ですし、もう少し楽な口調でもいいですよ?」
「……すみません、古傷が疼くので出来ません」

 クラバートはそう言い、ぎこちなく視線をそらし腹のあたりに手をやった。

 彼の過去に一体何があったのか、ティーゼは猛烈に気になったが、その時、しばらく様子を見ていたルチアーノが前に割り込んで来て、クラバートと向き合った。

「団長さんが直接いらっしゃるとは、珍しいですね。何か急ぎの用事でも?」
「あぁ、宰相様ですか。いえね、うちの部下が気になる事をしれっと言い残してくれたものですから、こうして慌てて駆け付けた次第ですが……うん。平和が保たれているようで何よりです」

 危うく崩れかけましたがね、とルチアーノは誰にも聞こえないよう口の中で呟くと、クラバートを見据えたまま、後ろに押しやったティーゼを指した。