「……うん。ないない、有り得ないよ。私、そんな乙女チックじゃないし」

 そのような憧れを持っていない事は自負しているつもりだったので、ティーゼは「ははは」と乾いた笑みを浮かべて可能性を否定した。もしプロポーズをしてくれる人がいるのなら、クリストファーのそばが一番良い、だなんて、決して思っていない。
 
 ようやく落ち着いたところで、ティーゼは、正門で立ち話をしている状況を思い出した。

 マーガリー嬢も帰った事だし、自分もそろそろ町の散策に繰り出そう。そう考えた矢先、ルイが背中に手を回して来たので、ティーゼは思わず「え」と声を上げてしまった。

「美味しいマフィンがあるよ。食べていって?」
「いやいやいやいや、私はきっちり役目を終えましたので、これにて失礼しようかとッ」

 ティーゼが全力で意見を主張すると、ルイが、もう帰ってしまうのかい、寂しすぎるよ、と捨てられた子犬のような目で気持ちを訴えて来た。麗しい優しげな美貌が、悲しそうにこちらを見据えている。

 ヤめてそんな目で見ないでッ、断れなくなるから!