彼女が言いきった途端、ルチアーノは無表情のままピクリとも動かなくなり、ティーゼも沈黙した。本当は魔王の事が心底嫌いなのでは、と疑ってしまうほど、マーガリー嬢は普段通りだった。

 しかし、当のルイは、全く気にした様子もなかった。

 ルイは、マーガリー嬢と顔を合わせた当初から、花が咲き誇るような甘い笑顔を浮かべていたが、返答をもらってすぐ「すごく嬉しいよ」と蕩けるように微笑んだ。そして、流れるような動作で彼女の手を取り、握りしめるぐらい喜びを露わにした。

「……あの、ルチアーノさん、これって」
「言わないで下さい。陛下は恋で目が曇っているわけではありません」

 言っちゃってる時点で認めたようなもんだよ。ルイさん、マーガリー嬢に対してポジティプ過ぎる。

 ティーゼは、両者の温度差を前に顔を引き攣らせた。

 その時、ルイに手を取られたマーガリー嬢が、僅かに頬をあからめたような気がした。ティーゼは「あれ? もしや」と首を捻ったのだが、確認する暇もなくマーガリー嬢が顔を伏せ、踵を返して無言のまま走り出した。