「多分、女の子が持つような憧れを、私はとうの昔に置いてきたのよ」

 遠くを見るように視線をそらし、マーガリー嬢が、背筋を伸ばしながら口にした。

「恋愛だなんて、考えた事もなかった。魔王陛下は、暇潰しでからかっているとばかり思っていたから、手紙の内容には驚いてしまったわ」
「えぇと、ちなみにどのような事が書かれていたのか訊いても……?」
「顔に似合わず、すごく情熱的な文章だった。今すぐにでも婚約出来ないかと書かれていて、先に結婚されてしまわないか心配で、だから、この町にある別荘から離れがたいのですって」

 途端に凛々しさは影を潜め、マーガリー嬢が心底困ったように頭を抱えた。

「……ラブレターなんて、物語の中だけだと思っていたわ」
「さすがにそれはないんじゃ……。いえ、私も詳しい訳ではないので断言は出来ませんが。私の周りのやつも、手紙よりは直接本人に伝えていましたからね。花を渡して、公衆の面前でプロポーズする奴もいましたよ」