近所のおじさん達に「お前がいると花が咲いたみたいに賑やかになるな」とからかわれた経験はあるが、そんな可憐な少女をたたえるような通り名はついていない。むしろ、色気のない道端の野花だと、本人を前に言う奴らが圧倒的に多い。

 マーガリー嬢は「『英雄』の幼馴染の話は、騎士団でも聞くから」とぼかすように説明した。

 貴族のみならず、騎士団にまで名前が知れ渡っているらしいと、ティーゼはショックを受けた。流れている話といえば、悪い噂しか想像がつかないせいもある。

「ただの幼馴染なんで、その辺は流して下さい……」

 利用者のない駅前には、人の姿はなかった。見回りの騎士もない時間なのか、沈黙すると風が通り過ぎる涼しげな音ばかりが耳についた。

 無人の駅を静かに眺めていたマーガリー嬢が、ふとこう言った。

「あなた、結婚について考えた事はある?」 
「ないですね」

 即答すると、何故か溜息を吐かれた。

「そう。私もなのよ」
「何故溜息を吐かれたのでしょうか」