立派な家を訪ねるような経験はなかったので、礼儀作法については分からなかった。貴族の振る舞いや礼儀に関しても、ティーゼの知識は乏しい。

「うーん、もしかしたら魔族なりの作法とかもあるかも……?」

 それはそれで困る。マリーに、もう少し詳しく訊いておくべきだった。

 しばらく首を捻って呻っていたティーゼは、ふと、門が音を立てて開いた事に気付いた。そちらへと目を向けると、灰色の髪と赤い瞳をした、細身の長身な男が一人立っていた。

 男は貴族の正装服を着込んでおり、やけに奇麗な顔をしていた。通った鼻筋の先には形の良い薄い唇があり、肌は町娘よりも断然白い。こちらを見降ろしてくる鋭い眼差しも、作り物のように切れ長で整っていた。

「我が主の門の前で百面相をして、一体何をされているのですか」

 冷やかに告げられると同時に、愛想の一つもない顔で秀麗な眉がそっと寄せられて、それだけで露骨に不愉快だという感情が器用に伝わって来た。