先程のクリストファーの滅多にないピリピリとした様子を見たせいか、何故かルイが真っ当な聖人にしか見えなくて、ティーゼは思わず目を擦った。おかしいな、魔王なのに神様とか天使様と言いたくなるのは、何故だろうか。

「じゃあ、私は役目を終えた事ですし、このへんで――」


 そう言いつつ席を立った時、屋敷の正門側から唐突に「訪ねたい人がいるのだがいいか!」と轟くような声が上がり、その声量に驚いて、ティーゼは「ひょわ!?」と悲鳴を上げて飛び上がった。


 タイミングを見計らったような第三者の登場に、ティーゼは嫌な既視感を覚えた。聞き間違えでなければ、その声はマーガリー嬢の物だ。ここを魔王の別荘だと知ったうえで、別の人間を訪ねたいという台詞には知らず顔が引き攣ってしまう。

 ルチアーノが「珍しい事もあるものですね」と立ち上がり、客人を迎えるために歩き出した。ルイが瞳を輝かせ、「僕も行くよ」と後に続く。

 そんな二人の流れるような行動に驚いたティーゼは、退出を希望するこちらの台詞は聞こえていたはずだが、と思いながら慌てて後を追い駆けた。

「ああああのッ、私はもう帰ってもいいんですよね?」
「今日の列車は、もう過ぎていますよ」