「えぇと、詩人はいたけど、別に広場で歌ってるのを聞いただけであって――」
「当たり前だよ。そんな詩人が君の近くにいようものなら、僕がすぐにでも殺してる」

 クリストファーは、爽やかな笑顔で、あっさりと物騒な事を言ってのけた。

 珍しい冗談が出るものだ、とティーゼは思った。クリストファーの顔が近いような気もするが、後退しようにも、テーブルに追いやられてしまっているため、それ以上距離は取れなかった。


「ああ、もしくは僕のいない間に、どこかの男が、君に姫のことを意図的に教えたのかな。中流貴族のレナード・マイルス? それとも、警備隊のボルドー少佐? 最近町に居座ってる冒険者のリンドンかな? ああ、酒屋で仲の良いクーパーとか?」

 
 不意にクリストファーが言い、ティーゼは思わず首を捻った。

「……あれ? クリス、私の新しい友達と面識あったったけ?」

 ティーゼの記憶が正しければ、彼らとクリストファーに接点はなかったはずだ。ティーゼも、交友関係についてまでは彼に教えた事はなかった。