あの、なぜ怒っているのだろうか……?

 彼女の知っているクリストファーは、温厚で棘のない男である。半魔族の王の討伐のせいで、まだ解消されていない疲れやストレスでもあるのだろうか。

「あの、クリス……?」
「ティーゼは、家庭を持つという言い方をしたけど、まるで僕の知らないところで結婚してしまうような台詞だね? それに、僕がどこか余所で結婚してしまうことが決定しているみたいだ」

 いつの間にか歩み寄られており、上から顔を覗きこまれて、ティーゼはたじろいだ。

 姫との結婚についての噂は、全国民が知っているぐらい有名だ。しかし、結婚の話題一つでここまでクリストファーが反応するとなると、もしかしたら、当人達にはまだ知らされていないサプライズなのかも……?

 ティーゼは、この場を穏便にやり過ごす台詞を探した。

「えぇと、その、……姫様、すごく美人なんだって聞いたよ。確か私より早く十六歳になったけどまだ婚約者もいなくて、求婚が絶えない美貌の持ち主、とか?」

 ……そうだったような気がする、よくは知らないけれど。