「僕の知らない男が、僕の知らないところで勝手に君の傷跡に触れていた。許せない」
「いやいやいや、私は気にしてないってば! お願いだから剣を鞘に収めてよッ、クリス!」

 英雄が国際問題を引き起こしてどうするッ。

 立ち上がって慌てて止めに入ると、クリストファーが、遅れて何かに気付いたように目を見開き、少し思案する顔をして、「……分かった」と小さく答えて剣を鞘に戻した。

 ティーゼは、自分が無意識に彼の愛称を呼んでしまったと気付かなかった。

 危うく魔族の宰相に怪我を負わせてしまう、という事態に嫌な動悸は止まらなかったし、ティーゼとしては、クリストファーのトラウマ的過保護が、彼の冷静さを見失わせる危険性について改めて重々しく受け止めていた。


 次に会う時は、きちんと解放の言葉を告げようと決めていたではないか。今はっきりと伝えておいた方がいい。


 殺気立つクリストファーを前にすると、緊張が込み上げたが、ティーゼは、告白する事で場の緊張状態が解除されるのならと思い直した。そう考えると、勇気も出てくれるような気がする。