ルチアーノの首に剣先が突き付けられたのを見て、ティーゼの思考は一瞬止まってしまった。

 ……え、何これ?

 暗殺、という二文字が思わず脳裏に浮かんだが、自分の後ろから笑うような声を聞いて、ティーゼは我に返った。


「氷の宰相が、隙を見せるほど警戒を怠るなんて珍しいね」


 聞き慣れた柔かな美声が、涼しげにそう言った。穏やかなその声はクリストファーのものだったが、ティーゼがそう認識して振り返った時には、彼の声は怒気を孕ませた低いものになっていた。


「今すぐその手を離せ」


 普段は優しげな彼の青い瞳が、ルチアーノを鋭く睨み据えて、目で「殺す」と威圧していた。

 ルチアーノは眉一つ動かさず、降伏するように軽く手を上げてティーゼから距離を取った。しかし、クリストファーは剣をしまわなかった。沸々と殺気を漂わせ、射殺すようにルチアーノを睨みつけながら剣の刃の向きを僅かに変えた。

「ちょ、クリス! その物騒なのしまってよ、なんて事してんのさ!?」