何事だろうと振り返れば、傷跡の先端を覗き込んだルチアーノが、そこに指先を触れさせていた。傷跡を他人に触れさせた事はなかったから、ティーゼは目を丸くした。触りたいと思うようなものでもないと踏んでいただけに、魔族である彼の好奇心の強さには驚かされてしまう。


「全然気になりませんよ。恐らく陛下にとっても、然したる問題にもならないでしょう」


 傷跡に触れた白く細長い指先が、すっと動いて首筋に回った。くすぐったくて身をよじるが、ルチアーノは冷やかしのような反応すら返してくれない。

「あの、ルチアーノさん……?」

 ティーゼは、どうしたらいいか分からず戸惑った。ルチアーノが、真面目な表情で何を考えているのか想像もつかない。

「馬鹿なあなたでも分かるように言いますと、不快にはならないという事です」
「はぁ、なるほど……?」
「傷跡は、どこまで続いているのですか?」
「この辺ぐらいまで」

 ティーゼは、その質問を不思議に思いながらも、自分の胸元辺りに手をやった。しかし、折角教えてあげたのに、ルチアーノが指し示した場所ではなく、こちらをじっと見つめている様子に気付いて、ティーゼは我知らず苦笑を浮かべた。