「実際に、あなた自身で気にした事はないのですか?」
「気にした事はないですね。平民の場合だと、必ず結婚しなければいけない訳でもありませんし、考えた事もないです」

 だいたい、この件に関してはクリストファーが気にし過ぎなのだ。十年も経てば傷跡は薄くなるし、今ではそんなに目立たないというのに「服をプレゼント出来れば良かったけれど」と申し訳なさそうに口にしたりする。

 思い出したら腹も立って来て、ティーゼは続けて愚痴った。

「あいつ、昔は塀の上を走ったり、木登りもした事がないお坊ちゃんだったんです。私達といるようになって、初めて友達が出来たってはしゃぐぐらいの箱入り息子で、喧嘩だって全然出来ませんでしたよ。ちょっと川で遊んだだけですぐに風邪を引くし、少し転んだぐらいで護衛の人が付いて来たり……受け身さえ取れない事を皆が知っていたから、だから、私達は反射的に彼を守ったんだと思います」

 あの時、幼いクリストファーは半魔族の容赦ない攻撃に耐えられないと、ティーゼ達は同じ事を思って動いていた。