ルチアーノが足を組んだまま、珍しく頬杖をついて、溜息混じりに言葉をもらした。

「温厚な人、ですか……」
「なにか言いたそうですね、ルチアーノさん?」
「たかが幼馴染にしては、ずいぶんと執着されている様子でしたので」
「執着ですか?」

 ルチアーノは噂を知っているから、きっと例の事件の事を言っているのだろう。考えるまでもなく、それはトラウマ物の心配性なのだと、ティーゼは複雑な心境を覚えた。

 それと同時に、一体どんな噂がそう思わせているのか、非常に気にもなった。

「ルチアーノさんは、英雄に関わる噂で、私の怪我についても聞いたことがあるんですよね? 私は、どんなふうに噂されているのか知らないんです。教えて下さいませんか?」

 ちらりと尋ねてみると、ルチアーノが肩眉をやや引き上げて「まぁ、よろしいでしょう」と興味もなさそうに言葉をつづけた。

「怪我を負わせてしまった女の子のもとへ、英雄が罪滅ぼしで足を運んでいるという噂は人間側では有名な話ですね。一部の貴族達の中には、それを良く思っていない者もいるようです。平民が遊んで暮らせる分だけの金を『エルマ』に支払い、その関係を切ってしまおうと画策した派閥がいたそうですが、英雄のプライドがそれを許さなかった、とか」