英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「は? あの、カルやジェンはずっとそう呼んできたから……」

 というか、なんでそこで幼馴染達の名前が出た?

 唐突に仲間達の名前を挙げられ、ティーゼは困惑した。彼らは町に残っている昔の仲間で、現在も友人として交流は続いていた。カルザークは腕に、ジェラルドは首から肩にかけて傷跡が残っている。

 というより、なぜ最近の事を知っているのだろうか。カルザークとジェラルドは、仕事の都合もあって、あまりクリストファーとは会えていないと寂しがっていた。ティーゼも、クリストファーには「皆も会いたがってたよ」というに留めて、深く話し聞かせていない。

 そもそも名前を呼ぶことに関して、年頃だからという妙な理由一つで、何かしらの礼儀作法でもあるのだろうか?

 ティーゼは、悩ましげに眉を寄せた。

「……君にそういうつもりがなくとも、僕としてはすごく気になるよ。例えば、魔界の『氷の宰相』が、ああやって自由に名前を呼ばせているという事実だけで――」

 視線をルチアーノへと移したクリストファーの語尾が小さくなり、声が途切れた。端正な唇だけが、言葉を刻むように微かに動かされて閉じられる。