「白ちゃん、真紅ちゃんにばれちゃったの?」
するりと聞こえた声は、ママのものだった。
「ママ!? えっ、ここって他の人、入れないんじゃ……?」
白桜さんは他人に聞かれては面倒だからと、結界とやらを張ったらしい。気づけば、遠くを歩いていた学校の生徒も、姿を消していたのに。
「無能だとは言っても、少しは学んだわ。私は結界を張ることも壊すことも出来ないけど、這入るくらい出来るわ」
ママはにっこり笑った。
「紅亜、様……?」
桜城くんが呆然と呟く。
「君が桜城くんね。真紅ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」
ママが微笑むと、桜城くんは目に見えて戸惑っていた。紅亜さま、とか呼ばれるんだ……。
「お邪魔しちゃった。ごめんね、白(はく)ちゃん」
「いえ。どうされました?」
「真紅ちゃんを迎えに来たら、御門の御符があったから、白ちゃんあたりが来ていてお話中かなーと思って」
「ご推察の通りです」
「でも白ちゃん。真紅ちゃんの件は、あくまで小路の話よ? あとは関わってもいいところ桜木の家だけ。……どうして白ちゃんが?」
「小埜古人の翁(おきな)より文をいただきました」
「小埜のおじいさん? なんでまた……」
「それは、お話は出来ませんことお赦しください」
白桜さんが謝ると、ママは「ふーん?」と唸った。そのあと、うずくまったままの黒いものを見て目を輝かせた。
「黒ちゃん!? わーっ、久しぶりねえ!」
「えっ? あ、はい……」
ママに呼ばれて、黒藤さんが立ち上がった。……白桜さんの拳がヒットしたらしい左頬がかなり紅い……。白桜さん容赦ないな。
「黒ちゃんが一歳のとき以来かしら」
「……やはり母上が眠る前にお逢いしたことがありましたか」
「ええ。紅緒に呼ばれて、外でね。んー、成長してみれば無涯(むがい)そのものね」
「……紅亜様、出来たらその言いようだけはおやめください」