「黒藤さん、大丈夫なの?」
「あ、うん。いつものことだから。若君は当代最強って言われるくらいなんだけど、あの通り白桜さんが絡むと色々残念で……。若君ほどの強者なら跡継ぎを望まれるから、早く諦めてほしいんだけどね」
「跡継ぎって……やっぱり他の一族? だから無理だってこと?」
桜城くんは目をしばたたかせた。不思議そうな顔で。
「それ以前の問題だよ? 白桜さんは男だから」
「へ? 女の子でしょ?」
「………?」
「ん? 白(はく)。真紅には話したのか?」
呆(ほう)ける桜城くん。若干復活した黒藤さんが言った。白桜さんは驚いたように軽く目を見開いた。
「何言ってんの? 真紅ちゃん。白桜さんは――
「架、いい。すごいな、真紅は。言い当てられたのは初めてだよ」
「言い当て、て……白桜さん?」
「架、真紅。一族や周囲にも俺は男として認識されているから、絶対に口外しないでほしんだが……いいか?」
と、白桜さんは口元に一本指を立てた。
「……本当に?」
桜城くんは白桜さんの言葉に、まだ疑問符を浮かべている。
「白は女の子だよ。ちょっと色々あって、今は男として過ごしてるけど。だから架。俺は将来的には御門に婿養子に入る予定だから、小路の後継者とかどうでもいんだわ」
「――――」
桜城くん、魂でも抜かれたように唖然としてしまった。
「お前の予定に勝手に俺を組み込むな。俺が話した人以外では小路には一人としてばれていないんだが……真紅にばれるとは思ってなかった」
「あ、ごめん、なさい」
「謝るな。口外されては困るけどな。今は男として生きてゆく身だ。色々あってな」
白桜さんは、黒藤さんの言葉を繰り返した。
……色々。