「俺は……見鬼ではないから。涙雨のことも、黒い小鳥にしか見えないし、声も聞こえないんだ」

淋しそうな桜城くん。黎の言っていた通りなんだ……。

「涙雨」

次に聞こえたのは少し冷えた声音だった。凛と劈(つんざ)くように呼ばれて、るうちゃんは羽を羽ばたかせた。

『白(しろ)のひ
「涙雨? 燃やすぞ?」

『失礼した、白(しろ)の若君』

桜城くんには聞こえないらしい声で、るうちゃんが即座に謝った。か、カゲキなこと言う人だなあ……。

私はまじまじと、呼んできた青年を見遣る。あれ、昨日の黒藤さんと同じ制服だ。

色素の薄目の髪と、黒い瞳。肌も白く、顔の造りも中性的だ。るうちゃんはなんと呼ぼうとして怒られたのだろう。

「げっ……白桜(はくおう)さん……」

私の隣でうめいたのは桜城くんだった。

「おう架。お前は帰っていいぞ。他の奴らに聞かれないように結界は張ったが、出て行くのは自由だ」

「……帰りませんよ。なんでそう意地悪いんですか、貴方は」

「生まれつきだ。気にするな」

「……疲れます」

はあー……と、桜城くんは長く息を吐いた。……昨日から相当お疲れのようだ。

「若君の次は白桜さんって……なんなんですか? 真紅ちゃんをこれ以上混乱させないでくださいよ」

文句を言う桜城くんに、白桜、と呼ばれたその人は口元に指をあてた。

「混乱をおさめるためにと思ったんだが――

「架! 真紅! 抜け駆けするな! 白は俺のよ

「うるさい莫迦(ばか)」

白桜さんの裏拳が、突如現れた黒藤さんの顔面に炸裂した。黒藤さんは顔を押さえてうずくまった。

「~~~~」

「若君……まだそんなことを……」

桜城くんがため息をついた。なんだか桜城くんは慣れている風なので、訊いてみた。