「嫌いではないよ。嫌いだったら家に帰れなんて言わないよ。桜城の跡取りには、兄貴のが相応しいから」

これは、黎が言っていたように桜城くんのお母さん、弥生さんの影響なのだろうか。

「兄貴はね〃桜城〃として優秀なんだ。小さい頃からそれを目の当たりにして、俺は兄貴を助ける立場になりたいって思ったんだよ」

あれ? これはどちらかというと、桜城くん自身の意思? そして呼び方が……。

「それは、鬼人としての、ってこと?」

あ。

言ってから、しまったと思った。桜城くんには、黎が吸血鬼であると知っていること、話していないのに。

「……兄貴から聞いたの?」

桜城くんの声は落ち着いていた。私を見る眼差しも。

……腹を括るしか、ない。

「……うん」

「兄貴が……桜城の中では異端だってことも?」

それは、黎だけが吸血鬼だということだろうか。

刹那悩んだけど、やっぱり肯いた。

「そっか。……兄貴は本当に、真紅ちゃんにならなんでも話せるんだね」

桜城くんは自嘲気味に言う。

「兄貴なら鬼人の一族を立て直せると思うんだ。兄貴の鬼性(きしょう)は今、桜城の中で最も強い。……だから俺は、兄貴に家に戻ってほしい」

「……桜城くんは、自分が、とは思わないの?」

「俺は鬼人としての血が薄いみたいで、何も出来ないんだ」

……本当に、知らないんだ。

ふと、桜城くんに影が差した。

「……昨日は、ごめんね」

「へ?」

「若君――黒藤さんのこと。急にびっくりしたよね」

「うん……。さすがにびっくりしたけど、桜城くんが来てくれたから、本当のことなんだろうなって思いながら聞けた」

「兄貴が聞いたら妬きそうだね」

桜城くんは愉快そうに笑った。