『期日が迫って母上の術の効力が切れているか、真紅の内側から力があふれているか……俺には、後者のように思える。今はまだ母上の結界の膜があるから抑えられているけど、真紅から霊力の波動が視える。誕生日を迎える前にも、真紅には何らか、霊的な影響があるかもしれない』

そのときはまだ心のうちでは、そんなこと、と笑えた。笑えなくなったのは、病院を出て夕陽を見た時だ。

一気に甦った来た、置いて来た記憶。私を襲ったものを、私ははっきり見ていた。

いや、視ていた。

今だから理解出来るモノ。

闇色の――あれは翼? を背にして、刀を私に向けて来た、ヒトの形をしたなにか。

私は逃げようとしなかった。逃げても、四方八方を囲まれていると気づいていた。

何も視えていないはずだ。今までおばけや幽霊なんて見たことはなくて、黒藤さんも、私は見鬼の力ですら封じられていると言っていた。

たぶん、視えていたことに、あの夜と同じ夕陽を見て、気づいたのかもしれない。

けれど、黎と帰っているときは何も視えなかった。その理由はわからないけど……。

私の身のうちから、あふれるものがある。

今まで閉じ込められていたモノ。無理に鍵をかけていたから、飛び出そうと暴れている。

身に添わない、大きすぎる力。

なにがきっかけ? それとも、リミットが迫っているから?

黎。

……逢えてももう、謝れもしないかもしれない。


+++


その日の放課後、私が一人で帰ろうとしていると、

「真紅ちゃん」

桜城くんが現れたけど、もう今までのように女子の視線を気にする必要はなさそうだ。

むしろ、『みんな公認の桜城くんの友達』、ということになってしまった。

……友達。嬉しい評価だけど、その中にはある種、主従関係が発生していることは口が裂けても言えない。

「今は、兄貴の代わりに護らせて」

小さく言われて、はっとした。

桜城くんの家、桜城家にとって影小路が主家であるから、そこに連なる私も護る対象になっているのか。

うーんと頭の中で唸る。……少し訊きたいこともあるから、ご一緒するか。

「桜城くんて、……黎のこと、嫌ってるわけではないんだよね?」