『期日が迫って母上の術の効力が切れているか、真紅の内側から力があふれているか……俺には、後者のように思える。今はまだ母上の結界の膜があるから抑えられているけど、真紅から霊力の波動が視える。誕生日を迎える前にも、真紅には何らか、霊的な影響があるかもしれない』
そのときはまだ心のうちでは、そんなこと、と笑えた。笑えなくなったのは、病院を出て夕陽を見た時だ。
一気に甦った来た、置いて来た記憶。私を襲ったものを、私ははっきり見ていた。
いや、視ていた。
今だから理解出来るモノ。
闇色の――あれは翼? を背にして、刀を私に向けて来た、ヒトの形をしたなにか。
私は逃げようとしなかった。逃げても、四方八方を囲まれていると気づいていた。
何も視えていないはずだ。今までおばけや幽霊なんて見たことはなくて、黒藤さんも、私は見鬼の力ですら封じられていると言っていた。
たぶん、視えていたことに、あの夜と同じ夕陽を見て、気づいたのかもしれない。
けれど、黎と帰っているときは何も視えなかった。その理由はわからないけど……。
私の身のうちから、あふれるものがある。
今まで閉じ込められていたモノ。無理に鍵をかけていたから、飛び出そうと暴れている。
身に添わない、大きすぎる力。
なにがきっかけ? それとも、リミットが迫っているから?
黎。
……逢えてももう、謝れもしないかもしれない。
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その日の放課後、私が一人で帰ろうとしていると、
「真紅ちゃん」
桜城くんが現れたけど、もう今までのように女子の視線を気にする必要はなさそうだ。
むしろ、『みんな公認の桜城くんの友達』、ということになってしまった。
……友達。嬉しい評価だけど、その中にはある種、主従関係が発生していることは口が裂けても言えない。
「今は、兄貴の代わりに護らせて」
小さく言われて、はっとした。
桜城くんの家、桜城家にとって影小路が主家であるから、そこに連なる私も護る対象になっているのか。
うーんと頭の中で唸る。……少し訊きたいこともあるから、ご一緒するか。
「桜城くんて、……黎のこと、嫌ってるわけではないんだよね?」