「………」
「でもね、真紅ちゃんが十六歳になったら、その心配はなくなるの。ママと一緒にいても、大丈夫になるって、約束があるのよ」
「約束?」
「そう。ママの半分との、約束。だから真紅ちゃん。今日から一緒に暮らしましょう? ママのところへ、来てほしい」
「え……」
「……ちょっと、困った?」
「いや、困ったって言うか……その、約束? で大丈夫になるのって、誕生日の日、からなんだよね? 今日はまだ二日前だよ?」
「そのくらいはママが護ってあげるわ。ママ、真紅ちゃんと一緒にいたいっていう願いを、捨てたくはないの。……ママの勝手で、振り回してごめん」
――その理由を、私は知っている。唇を、噛んだ。
「……真紅ちゃん?」
やや俯いた私の顔を、ママは覗き込んでくる。
「私、昨日、逢ったの」
「……逢った?」
「黒藤さん……ママからしたら、甥っ子になるんだよね?」
「――。黒ちゃんに、逢ったの?」
ママの声が、一気に緊張したものになった。『黒ちゃん』。
「そっか……もう小路は動いているのね」
「私に、色んなこと、教えてくれた。ママと黒藤さんのお母さんが双児の姉妹とか、私は……転生だ、とか……」
桜木は、退鬼師の血筋だ、とか。
ぽつぽつ、顔をあげられずに話すと、そっとママの手が私の頭を撫でた。
「隠していて、ごめん。真紅ちゃんを護ることは紅緒との約束だから、違(たが)えられなかった……。私は、母親として。紅緒は、当主として」
また、唇を噛んだ。知っていた。ママは、知っていた。
「……ママは、全部、知ってるの? くれおさんのことも……私、護るために、今は……」
「紅緒が眠っているのは、紅緒が選んだやり方のためよ。……紅緒も大概型破りだったわ。お父様も、紅緒だけはコントロール出来ないってよく嘆いていたくらい……」