明るい。カーテンで部屋の中への日差しは遮られているはずなのに、眩しくて意識が覚めた。
「ん……?」
「真紅ちゃん、おはよう」
「……ママ?」
快活に言って来たのは、カーテンを開けているママだった。その窓の向こう――隣の家の樹しかないそこに目が行って、ゾクッと背筋を氷塊(ひょうかい)がおりた。
慌てて視線を室内に逸らす。
「は、……早いね?」
「うん。真紅ちゃんに話があって……大事な話だから、ちょっと時間を取りたいの」
「話?」
私は敷布団の上に座った。ママはその脇に正座する。
「あら?」
ふと、ママが枕元の小さなカゴに目をやった。そこで丸くなっているのはるうちゃん――黒藤さんが念のため、と私の傍に置いてくれた黒藤さんの式だ。
「可愛い小鳥ね。怪我でもしてたの?」
「あ、うん――」
るうちゃんのこと、ママに正直に話していいのかな……。
「そ、それよりママの話って?」
今は誤魔化すしかないと判断した。ママが黒藤さんのこと――そもそも影小路っていう家のこと、知ってるかわからないから……。
「真紅ちゃんには、今まで淋しい思いをさせてごめん。一人にするなんて、母親失格よね」
ママは、身のうちのどこかが痛いように顔を歪めた。私はゆうるり首を横に振った。
「ううん……」
「……ママはね、ずっと一人で暮らしていたの」
「え? 彼氏、いるって……」
私が不審に思ったことは、当たっていたのか。
「いないわ、そんなの。……ママは、真紅ちゃんの傍にいると、真紅ちゃんを危ない目に遭わせてしまうようなものなの。だから……真紅ちゃんから、離れていないといけなかった」