黎が閉めた襖を見て、片目を細めた。桜木真紅と、明らかに接触があったな……。
書き物用の机の引き出しから白い紙を取り出し、筆で書きつけた。その紙に息を吹きかけると、白い蝶に変わる。
「御門の当主のもとへ。……急ぎ、頼んだぞ」
開けた窓から、白い蝶は飛び立った。
「主(あるじ)」
背後に顕現(けんげん)したのは、厳しい面持ちで見てくる、着物姿の男。年の頃は四十あたりに見えるようだ。
白い蝶が飛び立った先を見つめている。
「うん。わかっておるよ、古雅(こが)」
「……黎明の子ども、どうする気だ」
「……わからん。わしの手には負えない大事としか」
「だから、御門か。黒の若君では駄目なのか?」
「……若君はまだ不安定じゃ。御自ら真紅嬢の血をと、望みかねん」
「………」
押し黙る式に、背を向け続ける。
「ずっと一緒におってくれる子なら、よいのになあ……」
そう、思ったばかりなのに。
古雅から、応(いら)えはなかった。