「俺が愛人の子って立ち位置だから、誠さんの後継者には正妻の息子である架を推す声が強いんだ。ただ、弥生さんは俺を指名してる」
「それって……」
「一応長男ではあるからってことで筋は通ってるんだけど。俺は弥生さんの彼氏とも逢わせてもらってるし、その時から架のことも聞いてるから。弥生さんが架を据えようとしない理由は、桜城の血を引いてるのは俺だけだからだな」
「逢ったことあるんだ?」
「誠さんや美愛さんとも友人だったからな。……架は、跡継ぎは俺にっていう、弥生さんの影響を小さい頃から受けてるから、俺を家に戻したいんだろ」
「小埜さんの家には、家出していったわけではないんだっけ?」
「一応、小埜の家に保護されてるって形になってる。俺は鬼人と、更に吸血鬼の混血だから、陰陽師――小埜の家業がそれなんだけど――陰陽師ってやつのもとで、俺がどの程度人間に近いかとか、どれほどの鬼性があるかとか、調べるって意味で小埜の家に」
「それで……小埜の苗字を?」
「完全に監督されるから、小埜の家に住むことが前提だった。苗字を一緒にしておけば親戚とかと思わせられて説明が減っていいからって、今の当主のじいさんがな」
黎の事情は、聞くほどに複雑だ……。
「桜城くんは、今の話は……」
「自身の出生に関わるところは全く知らない。誠さんと美愛さんのことは、家の奴に伝え聞いた程度だろう。……両親のことは、俺から話す気はない」
「……それを話したら、黎に家に戻れって言わなくなるんじゃ……?」
「かもしれないけど、あいつは家のことを誇りに思ってるフシがあるからな。そこまでぶち壊せない」
「桜城くんのこと、嫌だったわけじゃないんだ?」
「嫌なわけないだろ。籍の上だけだと言っても、弟だ」
「―――」