頬に手を添えられた。心臓が跳ねる。触れたのは、あの夜以来だ。

黎は微笑を浮かべている。

「大丈夫だ」

なにが? 私はもう、ただの人間ではいられないかもしれない。……黎と、関わってはいけない人間かもしれないの。

――傍にいられないのは、私の方かもしれない。

いや、絶対に、私の方だ。

「真紅……?」

銀色の瞳が覗き込んでくる。今はどうしても、不安をあおられる色。黎が、人間ではない証。――鬼である証拠(あかし)。

ぶに、と頬を引っ張られた。

「いひゃっ!?」

「ったく、どうしたって言うんだ。そんなに逢いに来たのが迷惑だったか?」

頬を覆っていた手が摘まんでから離れた。私は頬を押さえて睨み上げた。そんなことはない。逢いに来てくれて、とてもとても、嬉しかった。

今だって。

「………」

黎は、私の心配の理由なんて欠片も気づいていない。……桜城くんは知っていた、その理由。

「……遠慮、しなくていいなら訊いてもいい?」

「なんだ?」

「桜城の家って、どうなってるの? 兄弟なのは戸籍上だけ、とか」

どこかに、黎と離れるべき正統な理由はないだろうか。私の気持ちを、完全に黎から切るような理由は。

「……歩きながら話すか。長くなるから」

黎の靴先が、私のいつもの帰り道の先へ向いた。

もう逢わないと言われたときは、ずっと手を繋いでいたのに。今は、私が黎から距離を取っている。

黒藤さんの言葉を、聞いてしまったから……。

「体面上、桜城の家では、俺が愛人の子で、架が正妻の子、ってことになってる」

「体面上?」