「へ? 大丈夫だよ。お仕事あるんでしょ?」

「お前な……この前あったこと忘れたのか? 看護師の人に聞いたけど、いつもより遅い時間、なってるんだろ?」

「う……それはそうだけど……」

「仕事のことなら気にするな。ちゃんと休憩時間だって抜けて来たから」

「………」

私がまだ反論したそうにいると、黎はさっさか歩き出してしまった。私の家は黎には知られている。

「真紅? 早く来い」

「~~~」

振り向いて呼ばれ、唇を引き結んだ。

隣に並ぶと、その瞳は銀色と気づいた。海雨の病室で逢った時は、黒かったそれ。わざわざコンタクト外してきたんだ……。

あ。

黒藤さんの髪、黎の瞳と似てるんだ……。

どこかで見た色だと思っていた。黒藤さんの前髪に混じった銀色の髪。

……黒藤さんは当然のように黎を知っている風だったけど、黒藤さんと逢ったことは話していいものだろうか。

告げられたのは、真紅(わたし)の血筋。

「どうした?」

見上げたままでいると、黎が訝し気に見て来た。

ガン見していたのがバレて恥かしくて、慌てて前を向く。

「あ、いやなんでも。……さっき海雨も言ってたけど、桜城くんとはあんまり似てないね」

「ん? ああ。親違うしな」

「片親?」

「いや。両親ともに。兄弟なのは戸籍上だけ。架と血の繋がりはない」

「そうなんだ……ごめん、そこまで複雑なご家庭とは思わなくて……」

「複雑でもないけど……架には言わないでくれるか? あいつは知らないから」

「? 黎は知ってるのに?」

「うん。俺からも言う気はないから」

そう言われてしまえば、それ以上は踏み込めなかった。