「わたしも病院ここになったの去年からですけどー。あー、わたしも彼氏ほしー」

彼氏!? そ、そう言えば海雨には全部話してあっても、黎とはこれからどうするかは話していなかった。昨日は、この先私の友達と黎が逢うこともないだろうから、彼氏だってことにしておけば? とは言われたけど……。

「み、海雨っ、役、あくまで彼氏役だから! 学校の子には絶対言わないでよっ?」

「なんだ、そうなのか?」

「黎!?」

残念そうに言ったのは黎だった。いや、黎は全部知ってるよね!?

……海雨といい黎といい、楽しんでいないか?

「そういえば、黎さんて桜城くんのお兄さんなんですよね? 家出したってほんとですか? 苗字違うし、わたし、黎さんと澪さんのが親戚だと思ってましたよ」

海雨の質問に、黎は面喰ったようだった。だが、すぐに微苦笑を浮かべる。

「弟だが、家出ってのは少し違うな。架がそう言い張ってるだけで。籍は桜城のままだけど、まあ家の事情で小埜の家にいる。小埜とは血縁関係はない」

「じゃあ本名は『桜城黎』なんですか?」

「戸籍上は、まだそうだな。でも、いずれは小埜に移ると思う」

「ふーん? でも桜城くんとはあんま似てないですよね」

「そんなもんだろ。真紅、もう昏くなるからそろそろ帰った方がいい」

「うっ!? あ、そうだね……」

弄ばれ過ぎて混乱していた私は、黎の言葉で我に還った。

それから海雨にも促されて、病院を出た。

色々あったから、いつもよりは遅い時間だ。沈みかける太陽の残光を森の端に見て、一瞬だけぞくっとした。

あの色は―――

「真紅」

「ひゃあっ!?」

背後から声をかけられて、過剰反応してしまった。

「れ、黎?」

「大丈夫か?」

「ちょっとびっくりしちゃって……どうしたの?」

「送る」