「もっともだな。だが、あまり早く接触しても少し厄介でな。……真紅の存在は妖異に対して秘されている。だが、俺たち小路一派は奴らには有名人だ。逢うだけで、真紅の存在が知れしまう危険性があった。真紅には内緒に式を護衛につけても、式を妖異に隠せない。怪しむさ。なんで徒人(ただびと)――普通の人間に式がついている? ってな。だからこのギリギリの時間を選ばせたもらった」
「………」
そう言われてしまえば、私に反論出来ることはなかった。桜城くんも同じらしく、黙っている。
「それから、もう一つ。真紅には話しておかなければならないことがある―――」
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「……桜城くんって、何者なの?」
海雨を訪ねて、学校が終わってからあったことを説明すると、海雨は胡乱な顔をした。
黒藤さんから語られたことは……まだ話すか迷っていた。
「……よくわからなくなった」
元々、私から親しくしていたわけではないけど……今日、従兄妹だという黒藤さんと逢って、桜城くんは黒藤さんの知り合いで、更に主従関係の家柄らしい。
……言い忘れてしまっていたけど、私は黎の家が鬼の一族だと知っている。吸血鬼の血があるのは黎とその母だけらしい。なら、桜城くんは……。
「梨実、入るぞ」
「はーい」
海雨が軽快に答えた瞬間、私の心臓と肩は大きく跳ねた。
「……真紅は何してるんだ?」
海雨の背中に隠れた私を見て、黎は首を傾げた。む、向こうからやってきただと……!? サービスし過ぎではないか!?
急に逢えるようになった黎に、正直戸惑っていた。
「って言うか黎さん! いつの間に真紅に手ぇ出したんですか! わたしの許可もなしに!」
内容だけ聞けば憤慨しているように聞こえるけど、海雨の声は楽しそうだ。
「ごめんな。梨実の友達とは知らなかった」
黎は苦笑気味に言う。海雨のこと、黎には筒抜けか。