「あ、いなくなった?」
「んー、母上の封じも解けかけてるかもなー」
黒藤さんは独り言ちるように言った。
「あの? 今の、鳥じゃないの?」
「姿は鳥だけど、俺の式だ。式神とか使役とか言われるやつ。一般人には黒い小鳥に見えてるから、色まで判別ついてるんだったら、真紅はもう見鬼と言って過言ない」
「……けんき?」
「平たく言うと、生物以外が視える霊視のことかな。母上の封じが解けるのは三日後の、真紅が生まれた瞬間だ。確か正午だったと聞いている。真紅の存在を秘匿するために、母上は霊力ともども封じたから、本来なら今、涙雨の本当の姿が視えるはずはない。それが解けかけている。あるいは、真紅のうちから力が突き破り始めている。……どっちにしろ、このまま真紅を置いておけなくなった」
すっと、黒藤さんの瞳が細められた。
ドキッとした。正直、今の今まで記憶をいいように抑えていたことを言い当てられたみたいで。
自分は、殺されかけたという。
あの日、学校終わりに海雨のところへ行った。昏くなる前にと、一人で帰った。薄い夕闇に歩きなれた道を歩いていて――次に瞬間には、指一本動かせなくて、声も出なくて、銀色の月を背負った吸血鬼に、血をあげると答えていた。――記憶がない間。……何が、あった……?
「若君、無理に真紅ちゃんを連れて行くなんてことは……」
「しないよ。ただ、護衛に涙雨をつけてもいいか?」
ぽん、とまたさっきの小鳥が現れ、私の肩に止まった。……少しの重さも感じない。ただ、触れている感覚だけがある。
式とか使役というのなら、動物ではないのだろうか。まじまじと小鳥を見つめていると、黒藤さんが笑った。
「真紅。涙雨が恥ずかしがっている」
「え? ごめんなさい?」
「取りあえず、架が俺のこと知ってるから、怪しい奴ではないだろ? 今の話も、総て受け容れられなくて大丈夫。おいおい理解していってもらうことにはなるが……」
「若、真紅ちゃんに小路への理解を求めるのなら、もっと早くに話すべきだったのでは?」
桜城くんの提言には、私も同意だ。リミットが誕生日だと言うのなら、その三日前というのはいきなりすぎだと思う。