「まず、真紅の母君の紅亜様と俺の母の紅緒は双児の姉妹だ。影小路っていう家で、代々陰陽師をしている」

……おんみょうじ?

「て、あの安倍晴明、とかの……?」

訊き返すと、黒藤さんは肯いた。

「そう。紅亜様は双児の姉で本家の長子でもあるから、影小路の直系長姫にあたられる。が、生まれてすぐに桜木の家に養子に出されたんだ。それは知ってるか?」

「あ、はい……。ま――お母さんが養子に入って、そこで結婚したっていうのは……」

その桜木家とも、今は縁切りされているんだけど……。

「紅亜様は陰陽師としての力はないんだ。かわりに、俺の母は力が大きく、先代の当主だった。今は眠っているが」

眠って? それは……もう亡くなられたっていうこと……?

「真紅は――あ、呼び捨てにしていいか? 俺のことも呼び捨てていいから」

「構いませんが……桜城くんは『若君』って呼ぶような方なんですよね?」

言いながら、戸惑いを隠せず視線を桜城くんに向ける。

桜城くんは苦い顔で口を動かした。

「……うちにとっての主家(しゅけ)っていうのかな。俺たちの桜城家は、影小路に仕えているんだ。若君――黒藤さんはそこの先代の御子息で後継者だから、俺にとってはそう呼ぶ対象なんだ」

しゅけ?

「……なんだか現代風ではないね……」

「それなのに普通に話せとか言われて……。若君にため口なんて聞いたら俺は一族に吊るし上げられます」

「そんくらい助けてやるって。で、本題だ。真紅は三日後、十六歳の誕生日だよな?」

「そうですが……?」

「真紅ちゃんの誕生日が何かあるんですか?」

「うん。簡単に言うと、生まれた時刻を迎えたら、真紅は一気に陰陽師としての力を取り戻す公算が大きい」

「……へ?」

「わ、若君……? 何を仰っているのです……?」

私も桜城くんも、気の抜けた声を出してしまった。