青年を見て顔面蒼白といった様子の桜城くんに、黙るように、とでもいうように青年は口元に一本指を立てた。それを受けて、桜城ははっと息を呑んだ。

「黒藤(くろと)」

「黒藤さ――ん。どうされたんですか」

「うん、ちょっとな。黎はもう行ったのか?」

「このまま病院に戻ると……黒藤さんは、一体……?」

「母上が目覚める前に真紅に挨拶しておこうと思ってな」

「! 紅緒(くれお)様が……?」

喉を引きつらせた桜城くん。私はさっぱり意味がわからない。っていうか『様』ってなに。青年はまた私の方を見た。

「はじめまして、影小路黒藤だ。真紅の母君の、紅亜様の双児の妹が俺の母にあたるから、従兄妹だな」

「………」

え。

「若君! 真紅ちゃんは影小路とは関係のないはずです。なんで今更……!」

青年――黒藤さんとやらに指摘された呼び方も戻ってしまっている。桜城くんは何をそんなに慌てているんだろう……?

「関係なくはねえよ?」

「ですが、紅亜様は影小路より離れられた身。桜木とももう関わりは……」

「いや、真紅は生まれる前に俺の母上と関わっちまってるから、どうしようもねんだわ」

必死な桜城くんとは裏腹に、黒藤さんは軽い様子で答える。

「あ、あの……」

「うん?」

呼びかけると、黒藤さんは人のいい笑みで応える。

「あの……さっきからさっぱり話が見えないのですが……?」

「うん。それは俺も覚悟してた。ちょうどいい。架も補足説明して」

「若君……」

マイペースな黒藤さんに、桜城くんは疲れたように声を押し出す。