「れ――兄貴!」
公園を出る前に兄貴に追いついて、そう呼んだ。兄貴は緩慢(かんまん)に振り返る。
「架……お前よくあんな口上手くなったな」
「兄貴が家にいない所為で色々処世術を。それより……」
「なんだよ。病院、無理に抜けて来てるから戻らねえと澪がうっせんだけど」
「みおって……兄貴に血をあげてる人だっけ?」
「いらねえって言ってんだけどな」
「それって、真紅ちゃんの血なら欲しいってこと?」
「………」
俺の誰何(すいか)に、兄貴は目を細めて睨んで来た。思わずため息が出る。
「古人様は、兄貴と真紅ちゃんのこと知ってるの?」
「……なんでじじいにそんなこと話さなきゃなんねんだよ」
「……は? 古人様、真紅ちゃんのこと知ってるだろ?」
「なんで」
「………もしかして兄貴、真紅ちゃんが『何』だかわかってないの……?」
「真紅は真紅だろ」
もっともな返事に、兄貴は本当に知らないのだとわかった。思わず片手で顔を覆う。
「……だから家に興味持てって言ってんだろ……」
「? うちと関係あんのか?」
………なんと説明しようか。
「――とにかく、今日帰ったら必ず古人様に、真紅ちゃんのこと話せ。桜木真紅って名前は知っている。……古人様なら、兄貴が真紅ちゃんと一緒にいる方法を考えてくれるかもしれない」