「んー。腹空かしてたらいい匂いがしてな。来てみたらお前がいた。名前は?」

「……お腹空かして……で、私の血……? え、鬼って、何、吸血鬼、とかなの?」

信じる気はないけど、あの一瞬は死ぬのだとわかった私の命が生きている。……これのおかげなのだろう。首にある、深い牙の痕。

「半分はな。俺は混血。でも、お前に当たって正解。ほんと、かぐわしいくらいの香りがする」

言って、自称吸血鬼は私の長い黒髪の先を掬い取った。その動作がまた美麗で、思わず動けなかった……。吸血鬼の、夜闇を切り取ったような髪に、月の光を浴びて銀色に輝く瞳――本当に、ただの人間ではなさそうだ。

「え、私におうの?」

そこ、ショックだった。これでも一応女子高生。

「いや? におうっつーか、俺みたいな奴しかわかんないと思うけど……すごく、食べたくなるいいにおい」

「食べ……!? 吸血鬼じゃなくて食人鬼だったの!?」

ダーマーとかああいったタイプ!? 私が叫ぶと、「騒ぐな」と呆れ気味に言われた。

「俺は混血だけど、人肉食はしない。吸血もそんな必要ねーし」

「それはさらに胡散臭さが増すんだけど」

「そりゃそーだ。ま、いいや。傷見せろ。治療、途中だから」

「……はい?」

「傷。出血は止めて俺の血を容れたから、もう死ぬことはないけど、傷があったままだと痛みはあるだろ? その傷跡消しなら出来る」

「傷……」

って、背中と首筋?

「ほら、服脱げ」

「………。! ギャーッ!」

そして冒頭に戻る。