「申し訳ないけど真紅……私の周りには、真紅の彼氏役出来る人とかは……」
「……だよね……」
やっぱり海雨は私の考えなんかお見通しだった。いないものをいるというなら、誰かにその役をやってもらうしかない。けど私が学内で一番近しい男子は、元凶である桜城くんだ。
「真紅、今すきな人いるんでしょ? その人が彼氏になる可能性はないの?」
「いや、黎とはもう逢えるかわからないし……」
最期の時に、と、既に突き放されている。
「れい? もしかして小埜黎さん?」
「………え?」
なんで海雨からその名前が出てくる? 私が胡乱に眉根を寄せると、海雨は、やっぱりそうなんだーと一人で納得している。
「あ、あの、海雨? なんでその人のこと知ってるの?」
「え? だって黎さん、たまに話しにくるし。真紅はいたことなかったっけ?」
「は、話しにくる!? なんで!?」
「なんで、って……黎さん、心療医見習いでしょ? まだ医学部生だけど、ここの職員さんだし……」
「そうなの!?」
「知らなかったの?」
お互い疑問符が浮かんでいる私と海雨。私は一瞬、思考回路が蒼ざめた。
まさかここに黎が――いる?
「……ちょ、
「真紅?」
「ちょっと探してくる!」
それだけ言い置いて病室を飛び出した。どこにいるかなんて海雨に訊ねる余裕もない。
どこでもいい。もう一度逢えるのなら。逢って、その銀色の瞳を映ることが出来るのなら――
「わっ!?」
「あ、大丈夫です――
か、と小さい声が、頭の上から降って来た。振り仰ぐと、自分を見下ろす黒い瞳に息を呑んだ。