「八割は」

「残りの二割は?」

「母上が目覚める前に喰われる。そんだけ、小路の始祖は妖異の間では評判だ」

「……俺も小路の始祖には逢ったことがないからな……」

小路には、十二人の始祖がいる。

本家と分家を含め、『小路十二家(こうじじゅうにけ)』と呼ばれる。黒と紅緒様は本家筋の人間だが、どの家に始祖の転生があるかは、陰陽師の先見(さきみ)でもわからない――転生の檻(おり)だけは、範囲外だ。

十六年前――俺も生まれた年――紅緒様は姉の腹に宿った姪の存在を知った。そして、母体を通してもわかるほどの強大な霊力を持ち始めている胎児。そこで初めて、小路は始祖の転生が生まれようとしていることにも気づいた。

当時、黒藤、一歳。俺はまだ生まれて間もない。

紅緒様は、小路の当主としての任を後継者に譲り、生まれる前の真紅嬢に封じの術をかけた。

転生の霊力を抑え込み、普通の人間と変わらないようにするほどの術を使えば、反動はいかほど大きいか計り知れない。

結果、紅緒様は眠り、その間、紅緒様の全ての霊力で真紅が護られるようになった。

現在始祖の転生と確認されているのは、真紅一人だけ。全く存在しない世代の方が多いくらいだ。

だからこそ、知られてはいけない存在だった。

転生が生まれ落ちるとき、天変地異や、必ず何かが起きるとかいったことはない。ただ、絶大な霊力を持った転生は、そのほとんどが当主となってきた。

黒は跡継ぎであることに頓着していない。むしろそういうのは邪魔だと言い捨て、どうにか後継者の地位を押し付けられる相手を探していたくらいだ。

「真紅嬢に伝えて、そのあとはどうする? 真紅嬢が陰陽師にでもならない限り、自身の身を護ることも出来ないんじゃないか?」

「今までの転生に倣(なら)えば、害するものからは、その莫大な霊力で補ってあまりある。近世に生まれた者は真紅同様、幼い頃は出自を知らされなかったようだが、成長してから修行して得た力で、小路の家ごと護っていたみたいだな。小路の家の者となるかは真紅の判断だが、否やと言われれば、持っている霊力のコントロールくらいは教えて、あとは涙雨あたりを護衛につけるかな」

のんびりした解答に、目を細めた。